英国の食について


先日テレビの情○大陸という番組で、京都の料理人がロンドンに出店する話題を取り上げていた。
その料理人はミシュランで星をいくつか獲得しているとかで、今勢いがあるらしい。

本物の日本料理を伝えたいということで、それは素晴らしい事なのだが、残念なのはその姿勢。
自らの勉強が足りていないのに公共的な放送で自らの無知を放ち、また放送局もそこに配慮がないところに
日本の現在位置が理解できる気がした。

もともとこの番組はもう少し違った目線で、頑張る人々をメディアで伝える(無名でも頑張る人を見つけて)内容
だと思っていたが、近年は有名人のプロモーションに使われている様子なので、仕方ないかも知れないが。

気になった発言とは、彼曰く、
「ロンドンはまずいものばかりだから、(私が)何をやっても旨い」と、
どうやら、ほとんど現地調査を自ら確かめる事無く、確信として発言していたようだ。
仮に本当の意味で美味しい店を訪れているにも関わらず、そう思ったのならば、
これはもっと問題で、彼の味わう能力を疑わずにはいられない。

ロンドンの食が総じて美味しいとは私も思わない。
旅行客など、そのまるで逆に出会う事の方が多いだろう。

しかしなのだ、、
彼らは日本でいうどのクラスの料理屋を、ロンドンの食事に宛がえたのだろうか。
自らは一般的でない食通の通よう店を看板に持ちながら、ロンドンの何と比べたのだろうか。

イギリス国外から訪れる食通は、一般的にイギリスの食を評価する者が多い。
これは音楽や芸術の分野、庭作りや工芸など、多岐に渡る共通点で、
ロンドンで学ぶことは大きな登竜門であり、その懐を知る者は、とても英国を軽視する訳にいかない。

ロンドンを正統日本料理店と言う視点で見れば、これはもちろん合格点は有り得ないが、
敵地に乗り込み、他国の文化を伝授しようとする者が、その国の文化を軽視し、引いた目線でしっかりと
現実を認識し、自分自身の置かれている立場を感じようとしない、軽薄すぎる態度は、
同じ日本人としてとても恥ずかしい思いになった。

京都では有名料亭菊○井でも、東京ではどうだろうか、日本全国ではどうだろうか、アジアでは、世界では
と、まだまだ知られていない日本料理を傲慢に伝え、謙虚さを持たない姿勢をとても残念に思った。
おそらく外国人が彼の料理を拒否したり、受け入れがたい様子であれば、「上質を知らぬ、分からない奴らめ」
と鼻で笑って終わりとなるのだろう。

この視点こそが、今日本が極東から脱皮するべき世界との標準価値の設定なのである。

ひとつ言える事は、
私はロンドンの食も、菊○井の食も知っている、という事実である。

彼らがこのプロセスを踏んでいれば、おそらく軽薄な言葉は吐かなかったであろう。
例えそれが、強気や負け惜しみであったとしても。

2012年12月
小澤桂一

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